ジオマーリン

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結局今は昔より危険なのか? 数字(GPR)で比較する

 

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Fishman64 Shutterstock

 

よく、「今は危険な時代だ」とか「戦争の兆しが見える」とかいう言論を聞きます。インターネットにアップロードされたブログ・記事では、たくさんの大惨事に関する予言が行われています。具体的には「中国が戦争を起こす」とか「第三次世界大戦は中東から始まる」とかさまざまなタイプがありますが、大半のブログには広告が貼り付けてあり、アクセスを気にしているように感じます。

 

 インターネットのデータが巨大になりすぎて、そして広告ビジネスが発達しすぎて、大量の”警告”を多くのブログで見つけても次のことが気になってなかなか信用できません。

 ①危険は特に増えていないのに、インターネット人口の拡大で騒ぐ人が増えただけでは?

 ②巨大な危険や陰謀の記事は、アクセスを稼ぐための誇大表現では?

 

 では、世界全体で危険が増えているかどうか数字で測定しましょう。

 結論を先にいいますと、世界情勢は確実に危険になっており、今後も続く可能性が高いです。

 コラムや意見を排除し、ファクトベースの報道から地政学リスクに関わる表現をカウントすることで、形式的に世界全体のリスクを算出した研究が連邦準備制度FRB)から出ています。GPR Index という指標です。この値は、石油価格等と強い相関があることが下の論文PDFに書かれています。GPR Indexの推移を参考にすると次のグラフになります。

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参考:FRB 「地政学リスクを算出する」

https://www2.bc.edu/matteo-iacoviello/gpr_files/GPR_PAPER.pdf

 ここ1年間は112から212の間で推移しているようですが、1990年台後半は50〜100ほどで推移しています。つまり、大手通信社・メディアをソースにすると明らかに危険な国際社会になっているということです。

 では実際に何が起こっているのでしょう。ウィキペディアで単純な比較をしてみます。

    

    1996年 - Wikipedia

 一番重要なニュース:ペルー日本大使館占拠事件

 一番有名な事件:ジョンベネちゃん殺害事件

    2016年 - Wikipedia

 一番重要なニュース:EU離脱・トランプ・北朝鮮の水爆実験・トルコクーデターのいずれか

 一番有名な事件:イスタンブール・ニース・ブリュッセル・フロリダの無差別テロのいずれか

 

 他の年も時間があり次第くわえますが、正直明らかな変化を感じます。この指標を信用できるものであるとするならば、現在は、9.11+イラク戦争の時以来の危険水域に世界情勢は入っていることになります。2000年台の地政学リスクは中東での戦争から始まり、リーマンショックを引きずる形で沈静化しました。下の図をはもっと長いスパンです。

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引用:https://www2.bc.edu/matteo-iacoviello/gpr_files/GPR_PAPER.pdf

 

 91年の湾岸戦争終戦以降のGPRの増加は本質的だと考えられます。それは、おおよそのGPR増加年代には大きな事件(9.11など)の極により牽引されています。しかし、2010年台は大量の危機(クライシス)が極として現れており、米国が介入できない・関係ないケースが増えています。そしてこの増加がインターネットの発達と因果関係があるとき、または、米国の弱体化と関係があるとき、今後のGPRの傾向は同じものになってしまう可能性も考えられます。インターネット・ブロックチェーンに既存の統治権威の支配力を弱める傾向があるとすればこの傾向は歯止めが効かなくなっていきます。GPRの増加を抑えるような手段として一体何が存在するのでしょうか?

 さらに、2010年台後半のGPRには、今の主役のひとつである中国がまだ関わっていません。多極化の傾向とGPRに相関があるならば、これからの新興大国による地政学的状況の悪化も考えられるのです。